
参加当時の目標は、自分の進路を明確にすることです。もともと、グローバルな視点で社会課題に取り組むことに関心があり、そこに携わる一つの方法が国連だと考えていました。そこで実際に国連の役割を現場で見てみたいと考え、プログラムへ申し込みました。大学入学前に立教大学について調べていたところ、このプログラムの紹介サイトを見つけました。漠然とした国際機関への憧れがあった私にとって、大学生でも国連で活動できるのかということに驚き、また、入学できたら絶対に応募しようと決めていました。入学後には、このプログラムに参加するにはどのような経験、スキルが必要かということを考えながら、大学生活を送っていました。
留学の機会と迷っていたところもあったのですが、学生のうちに国際色豊かな環境で業務に従事し、様々な会議に出席し、途上国の最前線で働いている方々とのコミュニケーションをとる事ができる機会はかなり希少価値が高いと思い、この機会を選択しました。

スワイへの出張
派遣先はUN Women東ティモール事務所です。その中で、WPS (Women, Peace and Security) &DRR (Disaster Risk Reduction) プログラムをサポートする役割を担当しました。具体的には、政府機関におけるジェンダー平等や、災害下において被害を受けやすい脆弱性をもつ人々に対するエンパワーメントを行う業務に携わりました。東ティモールでは、女性の経済的自立が難しく、また文化的、歴史的な背景を理由に暴力被害に遭ったり、災害時に避難が遅れて犠牲になったりしています。そのような現状を克服していくためのトレーニングを運営したり、戦略を立てるにあたってのサポートをしたりしました。
印象に残っている経験は、政府機関に対するジェンダーと防災の知識をインプットするためのトレーニングです。ジェンダーとは何かというような基本的な内容から、国際的なジェンダー平等に関する枠組み、さらに、自分たちの防災の仕事にジェンダー平等のための概念をどう取り込んでいくのかという発展的な内容まで扱いました。私は国際的な枠組みについてのインプットを行うセッションを担当しました。政府機関で働いている人に対してセッションを組むという経験は本プログラムならではの活動であると思います。また、そのトレーニングの参加者に取材をし、参加者の変化を記事にまとめるという業務も担当しました。この業務では、国連の中で広報物を制作することの難しさを学びました。
総じて、開発途上国へ支援に来ていても、どの組織に属するかによって、できることや任される役割が大きく変わるのだということを学びました。私は国連に属していたので、私たちからみる日本政府はドナーという立場であり、日本政府とやりとりをする際にはどうやったら日本からの資金が東ティモールの女性の権利のために有効的に使われるかということを考えながら活動をしていました。また、日本からの資金が開発途上国で具体的にどのように使われていて、何に貢献しているのか、その資金の使われ方にどのような意味や課題があるのかなどを分析していくことで、現場でしか感じることのできない困難や仕事のやりがいを見つけることができました。

集合写真(東ティモール政府内務省の建物内にて)
この経験を通じて、社会の見え方が変わりました。なぜ日本の道路は常にこんなに綺麗に整備されているのか、日本の法制度や政府機関の役割はそれぞれどのように出来上がっていったのかなど、政府の支援を行なっていたからこそ、日本や世界各国のガバナンスの仕組みを多角的に見ることができるようになり、同時に、もっとよく知りたいという気持ちが芽生えました。私たちの生活を構成している一つ一つがどのような意味を持つのか、なぜ存在しているのかを考えるための新たな視点がひらけてきました。このような視点は今実際に自分が勉強している開発学、特に国の発展の仕方の違いという文脈において、かなりリンクしています。
また、この経験で海外で活躍するために必要な、さまざまなプロセスを自分一人の力で乗り越える力やプレゼン力、自分の意見をしっかりと主張する力がついたと思います。このプログラムでは、自分で責任を持って各種プロセスを英語で進めていく必要があります。業務の中でも、プレゼンをしたり、自分の視点から出す意見を求められたりしました。この経験から、マネジメントスキルやコミュニケーションスキルが身につきました。そして、いかにして自分のプレゼンスをその場その場でどのように発揮するかという考え方ができるようになったと感じます。これらのスキルは、今の大学院留学生活の大きな糧になっています。

自身の記事が掲載されたサイト
私は、この活動の中で自分の専門性を持って国際社会で活躍できるようになりたいと思うようになりました。そして、同時に英語力やファシリテーション能力、プレゼンテーション力など、業務をするにおいて自分がもっと伸ばしたい能力を多く発見しました。自分が被災地、宮城県仙台市で東日本大震災を経験し、東ティモールにおいてもその自然災害が発生した時の脆弱性が間近で見られたこと、また、今回の業務を通じて途上国の防災分野の現状に深く知る事ができたことから、気候変動や防災分野に興味を持ちました。したがって、自分の現在興味を持っている分野においての勉強を進め、経験を積み、国際社会に対して自信を持って貢献できていると言えるよう、努力を重ねていきたいと思います。
また、東ティモールで作ったコネクションを今後のキャリアのなかで大事にしたいと思っています。実際に2024年3月にCSW68という女性の地位向上のための国際会議に出席した際に、ニューヨーク国連本部で、東ティモールの同僚と再会することができました。人とのご縁はいつ、どのような機会を生むかわからないため、いつかまた、彼らと一緒に働くことができたらと思っています。
私が過ごした五ヶ月間で最も印象に残っている会話があります。それは、「私は日本を許す事ができない。」という、ある日のお昼ご飯を一緒に食べている時の同僚の何気ない言葉です。東ティモールは日本に占領された歴史があり、現地の博物館を訪れた際にも、その記録が確かに刻まれていました。当時、日本の占領によって40,000 から70,000人のティモール人が犠牲になったと言われています。私はこの時の言葉から、日本人として国連という舞台で働くとはどういうことなのかを教わりました。大学生とはいえ、国を代表してきているという意識は常に持っていなければならないことはもちろんですが、その派遣先の歴史、文化、言語に対して興味を持って、敬意を示すことが非常に重要です。
このプログラムに参加することで私のように、人生を大きく変え、人々の豊かさについて考える経験ができることと思います。そして必ず、自分の当たり前が当たり前ではなくなる瞬間を味わうことができます。私が出会った職場は、人と人が心を通わせ、一人でも多くの東ティモールの方々が笑顔になれる未来が来るよう、その場にいる一人一人が持っている能力を最大限発揮しようとしている場所でした。このような環境でできた経験とこの言葉は自分自身の価値観に大きな影響をもたらしました。自分の力を国際機関で試してみたい、自分が将来どのような人になりたいのかを国際的な場で考えたいという人は、ぜひ勇気と情熱を持って一歩踏み出してみてください。

大統領府でのイベント(中央大統領)