私が国連ユースボランティアプログラムに参加した理由は、国連という舞台で実践をしたかったからです。私は中高 6 年間を男子校で過ごし、その中でジェンダー問題に直面した経験がありました。その経験から、中高大と学びを深めていました。しかし色々と勉強しているうちに、「勉強だけでは問題は解決せず、単に自身の知的好奇心を満たそうとしているにしか過ぎない。」と思うようになりました。もちろん勉強、いわゆる理論の探究は社会のあるべき姿を明らかにし、また問題の根本的な原因を追求するという点で社会問題の解決に貢献しています。しかし実践という何かアクションを起こさなければ、現状は変わりません。そう考えるようになってからは、国連・外交サークルの代表を務め、気軽に社会問題について議論出来る機会を作ったり、他学生団体において難民の方の支援に携わらせていただいたりなど、実践にも力を入れていました。
そのような中、国連に対して興味を持つようになりました。私の現在の関心分野は、日本にいる外国人がどのような問題に直面しているかなど、日本国内のことに興味があります。しかし実践において多角的に物事を見た経験から、見方を変えれば、新たな解決策が見えてくるかもしれないと考え、国連という組織の視点に興味を持ちました。通常、 国連で実践する、つまり働くには修士号、および実務経験が必要です。しかし国連ユースボランティアプログラムは提携大学において、学部生でも国連で活動することが出来ます。学部生から国連という組織からの視点を持てるということに魅力を感じ、参加することを決意しました。
応募する前は最終的に参加するかどうかは分からなくとも、選択肢は狭めたくないという思いから大学が指定している推奨科目を履修して、国際問題に対する理解を深めていました。また自分が今まで何をしてきたかという自分史を作り、興味、憧れ、教訓、価値を整理していました。特に国連の面接では、過去の具体的な経験・事 例とそれに対してどう行動、そして考えたかというのを終始聞かれるため、自分史の作成には力を入れていました。また自分史の作成は面接対策のためだけではなく、自分を深く知り成長に役立てることが出来ます。過去の経験を振り返ることで、自分の好きなこと、得意なこと、そして自分はどのような価値観を持って生きているのかが見えてきます。
また国連ユースボランティアプログラムの選考にあたって私は UN Women というジェンダー問題を扱う機関に応募していたので、ジェンダーという側面で「将来世界はこのようになってほしい」と考えていました。そしてそのような世界を実現するためには何が必要か、そして自分は何が出来るのかといったように分析していました。この分析は面接において下支えとなる自身のモチベーションをアピールすることにも繋がりました。
これらの分析をした上で、自分の得意なこと、好きなこと等を強化して、少しでも貢献出来る人間になるために派遣までにどのようなことをすれば良いかを計画しました。その際、過去の派遣生の人とお話をしたりして、どこに力を入れるべきかを相談した上で派遣直前まで英語力と ICT スキルの強化に力を入れていました。
活動中で最も印象に残っているのは、「Gender Strategy 2024-2028: PNTL (National Police of Timor Leste)」のパンフレット作成とそのイベントです。「Gender Strategy 2024-2028: PNTL」とは東ティモール国家警察がジェンダー平等を警察組織内に促進し、女性の参加とリーダーシップを強化することを目的とした戦略が書かれた文書です。私は活動中、約 50 ページあるこの文書を 4 ページほどのパンフレットにする業務をしていました。この業務において私は文書から伝えたい情報を抜き出し、またレイアウトも考えるという役割を担いました。もちろん全ての人が文書を全て読んでくれることが理想的な状態ですが、やはり読むのに抵抗がある人もいます。そこで少しでもハードルを下げ、このパンフレットを読むだけで文書の大体の内容が分かるようにする必要がありました。またレイアウトに関しても、あまり使ったことのない Adobe InDesign というソフトを使い、なるべく文章は減らし図や写真を増やす必要があり、最も大変な業務でした。
しかしこの文書は元々東ティモールで配布されるだけではなく、UN Women の地域事務所のサイトでも公開することが予定されていたもので私が作ったパンフレットもそこに掲載されることになりました。また SNS で公開したときは大きな反応があり、非常に達成感を感じました。また東ティモール国家警察の人全員が集まり、文書の完成を祝う会では多くの人がパンフレットに目を通してくれ、非常に嬉しかったのを覚えています。
活動中に苦労したのは、私の内向的な性格から来る派遣先での人間関係作りでした。もちろん人間関係が上手くいかなくても、指示された業務を淡々とこなすだけでも派遣期間は終わると思います。しかし日本では得られないことを得たいと望むならば、ある程度人間関係を作っていく必要があります。
しかし頭では分かっていても、内向的な性格だと国外・国内関わらず新しい人と話すのは苦手ですし、また自分より明らかに歳上、そして国籍、文化も違う人と話すとなれば腰が引けてしまいます。そのため最初は同僚に自分から話しかけることは出来ず、また会議においても一切発言せず終わるということもありました。しかし私は話したくないわけではなく、「話したい」という思いがあったため、「ボランティアだから少しくらい失敗しても大丈夫」とあえて開き直り、広報としてイベントに参加した際、運営しているプロジェクトメンバーに雑談からではなく、業務の質問をしてみるなど、とりあえず話すきっかけを作ることを意識していました。一度話すとその人の性格も分かっていきますし、また話も業務の話から雑談へと広がっていきます。そうすると意外と異国の地でのコミュニケーションに対する怖さはなくなり、内向的な性格を活かした方法で、人とどんどん繋がって行くことが出来るようになりました。
最終的には UN Women の同僚だけではなく、他の機関の同僚、NGO、KOICA (Korea International Cooperation Agency) など様々な人と繋がりを持てるようになり、様々なバックグラウンドを持った人からお話を聞き、非常に楽しくまた学びのあるものへとなりました。
国連ユースボランティアプログラムに興味のある人は、何かしら社会に対して問題意識を感じていて、「こんな社会だったら良いな」という理想があると思います。ガンジーの言葉に「求める世界の変化にあなた自身がなりなさい」というものがあります。立派なものではなくても、何かしら問題意識、そして行動したいと思っている人にはぜひ応募した方が良いと思います。
しかしそうはいっても、様々な不安があると思います。私の場合、応募前までは「国際経験豊かで英語がペラペラ、外交的で何でも出来る人が活動するものなのだろう」というイメージを持っていました。しかし実際派遣された私は国際経験豊かではありませんし、英語力に関してもコンプレックスがあります。それでも私が応募してみようと思ったのは、「悩むならなってから悩もう」と思ったからです。少しでも興味を持った方は、頭の中で考えるより、英語力を上げる、国連ユースボランティアプログラム経験者に話を聞いてみるなど何か行動してみると良いと思います。
確かに国連ユースボランティアプログラムに応募する人の中には国際経験豊かな人もいます。しかし完璧な人間はいませんし、全員違った強み、弱みを持っています。その強み、弱みを実際に応募してから強化、改善するという形でも良いと思います。一番大事なのは、とにかく今の状態をいかに自分が理想とする状況に近づけられるかと考え、行動することだと思います。そのためにまず自分がどういう人間になりたいのか、自分はどのような軸を持っているのかを整理してみると良いと思います。
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《注》国連ユースボランティア派遣生のポジション名は、正式には「国連ユースボランティア」ではなく「国連大学生ボランティア」である。しかし、学内では「国連大学生ボランティア」という表記を使用していないため、国連ユースボランティア事業で派遣を行っている学生の事を「国連ユースボランティア派遣生」、他留学プログラムに合わせる形で国連ユースボランティア事業を「国連ユースボランティアプログラム」と表記する。
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